渋谷教育学園渋谷高等学校の社会貢献学習活動としてお声がけいただき、0から作り上げたオリジナルプログラム。最終成果として下北沢で行った企画展には、化粧品企業関係者や卒業生、近所の方々など取り組みに関心のある方々にお越しいただき、半日で100名弱の方々が見に来てくださりました。今回の取り組みについて、プログラムの考え方から当日の展示の様子までお伝えします。
取り組み背景
2022年3月、横浜で行われたサステナブル・ブランドサミット2022に発起人の伊藤が参加した際、会場で持続可能な社会を作るために、渋谷教育学園渋谷中学高等学校(以下、渋渋)の学生が真剣に発表している姿を目撃しました。学校方針としてリベラルアーツがSDGs達成の鍵となる学問であるという考えの元、社会的意義のある活動の紹介が行われていました。
偶然にも、伊藤が所属するエフアイシーシーでもリベラルアーツを経営の核にしており、COLOR Againが誕生した背景としてもリベラルアーツは鍵になっています。
登壇されていた北原先生にCOLORAgainの取り組みをご紹介し、後日先生から渋渋生が取り組めるプログラムがあれば学生にサービスラーニング*として紹介したい、とオファーをいただき今回の取り組みに発展しました。
※サービスラーニングとは
主に渋渋の高校2年生を対象に、これまでの経験と学びを活かし、地域社会が抱える課題の解決にむけた社会貢献活動に取り組み、その経験を通して学んだことを発信するサービス・ラーニング(社会貢献活動教育)を実施する活動。
COLOR Againが意識したこと
COLOR Againは、立ち上げ当初から自分に向き合う時間を大切にし、固定観念から解放し人の可能性を広げる活動を行ってきました。私たちが大切にしていきたいことは、その人自身の感性です。今回、学生の可能性を広げることに軸をおき、学生が自身の感性に自信をもつことをゴールとして、プログラムを考案しました。
次世代を担う学生たちが社会の一員として今何に関心をもち、どのような世界が理想なのかを自身で考える環境を作ることに集中した結果、最終成果物に幅が生まれました。
自分が何をしたいのか分からないまま、プログラム通りにこなすだけではほとんど意味がありません。まずは自分を知ること、次に今何に疑問を抱いているかというプロセスで、自分の興味関心を起点に社会貢献に繋がる取り組みを考えてもらいました。
取り組み内容
年間約2万トン以上の化粧品の中身が捨てられてしまっていることをはじめ、様々な問題に出会った学生たちが、自身と向き合う中で何を解決したいのかを考え、解決方法を企画してもらい、企業への提案や実行までやり切る活動を行いました。
まず、自身の感性と出会うために、哲学博士の吉田 幸司氏にファシリテーターとしてご協力いただき、「自分らしさ」や「理由のない美意識」というテーマで、日ごろ感じることをCOLOR Againと学生で共有し合いました。
哲学対話を通じて、「他の人から影響を受けた自分らしさは本当に自分らしさなのか?」「他者から評価されなくても守りたい美意識は何か?」などの、新たな気づきや課題の発見に繋がる問いに出会いました。これらの問いも学生から出たもので、この時間が多くの学生にとって自分の感性に自信を持つきっかけ、そして価値観に気づくきっかけになりました。
また、違う角度から感性に出会うために、COLOR Again公式アンバサダーであるHIKOKONAMI氏のサウンドバス体験を通じて自身の内側に耳を傾け、他者と考えを共有する場を提供し、音からのインスピレーションを自身のコスメを活用し描いてもらいました。
さらに、学校では学ばない化粧品の成り立ちから廃棄や児童労働の問題、そして再活用の方法まで学ぶ機会を、COLOR Againのもう一人の発起人である田中 寿典氏のもとで実現しました。また、メーカーの視点を学ぶために実際にコーセー様の研究所や本社に伺い、実際の開発プロセスや現場見学、社員の方との交流を行うことで、モノ創りに対する理解を深めました。この学びがあることで、学生たちが最終的な成果物を作る上での基盤作りになりました。
自身と向き合う中で、何を解決したいのか、どんな未来が理想的かを明確にし、自分達では成し遂げられない企画が立ち上がり、多くの方々にサポートいただきました。この場を借りて感謝申し上げます。
学生考案の企画内容
・文武平等に疲労を感じている友人への手紙
・アスリートにおけるメイクの意義や自由について対談するラジオ放送
・診断テストやジェンダーに囚われない自分らしいメイクアップ体験
・美しさに関する哲学対話 in 渋渋
・OEMから廃棄されるバルクを集結させたブランドの立ち上げ
・化粧品原料製造過程にある児童労働へ着目した、不要コスメを使用した雑貨販売とNGOへの寄付
・企画展への渋渋生の想いを集結したメッセージカード
企画展当日の様子
当日は化粧品関係者はもちろん、渋渋の卒業生、たまたま通りかがった方まで約100名弱の方々にご来場いただき、学生の想いが込められた取り組みに真剣に耳を傾けている様子でした。
哲学対話のコーナーでは、学生同士の哲学対話のプロセス公開に多くの方々に興味を持っていただき、実際に学生がファシリテーターを行い哲学対話のミニ体験も行いました。体験者からは「改めて自分と向き合う時間になった。就活の機会にやるといいかもしれない」など、新たなアイデアもいただきました。
また、渋渋で不要になったコスメを回収し雑貨へとアップサイクルしたものを販売するチームは、この取り組みを行っている背景である、化粧品原料製造過程にある児童労働の現状を来場者に伝えるなど、ここに来なければ知る機会がないトピックに触れ、自分達と同じ年齢の子供たちが厳しい環境で生活している現状を少しでも変えたい想いを伝えました。
※現在、大手化粧品メーカーは児童労働により取得された原料は採用しない方針を採っています。
販売の利益を児童労働に関わっている子どもたちに寄付し、児童労働問題解決の支援をしたいという想いでクラウドファンディングにも挑戦し、無事目標10万円を達成することができました。
今回、メイクアップ体験のチームが企画を実現するにあたり、花王ビューティリサーチ&クリエーションセンターのメイクアップアーティストの方々にもご協力いただき、診断テストやジェンダーに囚われない自分らしいメイク体験も実施しました。
参加者より「自分にこんなメイクが似合うと思わなかった」「こういうのもいいなと思えた」などの声をいただいたことで、凝り固まった考え方や、ひとつの考えに囚われ過ぎなくて良いんだなと改めて思えたと、企画者の学生にとっても気づきのある体験となりました。
参加学生の声
”外部の企業の方と関わって何かプロジェクトを進める体験が高2にして初だったので、世界が広がった気がしました。他のサービスラーニングを選んでいたら出来なかった体験が沢山できたと思います。物事を多面的に見られるようになった気もします。また、自分の中で無意識にあった、固定概念にとらわれていたり「常識的」に考えてしまっていた潜入感、偏見に気付き、考え直すことが多くなりました。”
”哲学対話は、学校では批判されるかもしれないとか思ってなかなか言えない自分の考えを共有したり、意外とみんなもこんなふうに思ってるということを知ることができ、自分の価値観を認められるようになりました。企画のアイデアやプロセスは、何度も自分が何をしたいのかなんでやりたいのかを考えることで自分でも知らなかった自分を知ることができました。”
”私のようにコスメ廃棄や環境問題に興味がある人はアップサイクルが重要なポイントでありましたが、Aさんのアスリートのメイクや、Bさんグループの児童労働に興味を持っているような人たちも参加できて、それは多様な考えを私に教えてくれることにも繋がってすごく良かった。同じコスメに興味がある人でも、それぞれ問題意識の方向は違くてとても興味深かった。”
参画企業からの声
PARTNER
渋谷教育学園渋谷高等学校
CREDIT
Project leader/ Planning:伊藤 真愛美
Lecture / Direction:田中 寿典
Sponsorship:(以下略称、五十音順)
花王株式会社,クロス・フィロソフィーズ株式会社,株式会社コーセー,東色ピグメント株式会社,Terre des Hommes Netherlands,株式会社日本色材工業研究所,HIKOKONAMI,花田真寿美,株式会社ローカルドリームプロダクション